高齢のクライアントから一通の通知書を手渡される。給付金の決定通知だ。行政用語が並び、法令の条文が引用され、再申請の期限が隅に小さく記されている。クライアントには文字通り意味が通じないし、正直なところ、私自身も内容を正確に把握するまでに二回は読み返す必要がある。さて、再申請の期限が切れる前に、これをクライアントが実際に行動に移せる形に変換しなければならない。超高齢社会を迎え、在留外国人が増え続ける日本において、これは社会福祉士、ケアマネジャー、地域包括支援センターの職員にとって日常茶飯事の業務です。
安全な手順を踏めば、AIが福祉職員にもたらす恩恵は大きく、かつリスクも最小限に抑えられる。ここでは、クライアントの個人情報を一切危険にさらすことなく、複雑な行政文書をクライアントが理解しやすい「やさしい日本語」に変換する方法を解説する。
なぜこうした通知書は読みにくいのか
あなたの直感は正しいのです。日本の行政通知は、長文や名詞の羅列、日常会話ではまず使わない法律用語といった「行政用語」で固められています。それを受け取る側は、たいていそれを解読できる立場にありません。対象となるのは、高齢者、日本語に不慣れな外国人、すでに危機的な状況にある人々です。
これがまさに「やさしい日本語」が解決すべき課題です。2020年に出入国在留管理庁と文化庁が策定したガイドラインでは、文を短くして日常語を使い、情報を細分化し、ふりがなを振ることを推奨しています。対象者を問わず、確実に情報が届くための書き方だ。公式文書をこの形式に変換するために特化した「伝えるウェブ」のようなAIサービスも存在します。AIはこうした読み手の格差を埋めるのが得意です。「保護費の返還を求める」といった表現を「払いすぎた分を返してください、という意味です」と平易に言い換えるのは、AIなら簡単です。だが、通知書をChatGPTに入力する前に、守るべき鉄則が一つある。
最優先のルール:個人情報をAIに入力しない
クライアントの個人を特定できる情報を、一般公開版のChatGPTに貼り付けてはいけません。それは保護されたデータを扱うために設計された機密環境ではないからです。入力したデータは海外のAI事業者に送信されるため、日本の個人情報保護法上、「第三者提供」に該当する可能性があります。福祉記録には「要配慮個人情報」が多く含まれています。障害名や生活歴、医療・給付の履歴などが該当します。個別支援計画をChatGPTに貼り付ける行為は、AIや福祉の専門家が警告通り、明確な法違反リスクを伴う典型例です。
そして、匿名化とは単に名前を消すことではありません。プライバシーの専門家も指摘するように、名前を削除しても、年齢や疾患、出来事の組み合わせ次第では個人が特定されてしまうことがあります。珍しい疾患や特定の日付・金額などが該当します。それらすべてを削除するか、プレースホルダーに置き換える必要があります。
安全な4ステップ・ワークフロー
個人情報を削除した状態でAIに下書きさせ、確認作業を経て、改めて実際の情報を安全なシステムに反映させる。最終的な成果物に対する責任は、常にあなた自身にあります。
ステップ1:自身のシステム内で匿名化する。安全な文書の中で、クライアントの名前、ケース番号、住所、生年月日、および特定可能な疾患や金額を、[クライアント]、[日付]、[金額] などのプレースホルダーに置き換える。
ステップ2:匿名化されたテキストをAIに「やさしい日本語」への書き換えを依頼する。うまくいくプロンプト例:「この行政通知を平易な日本語(やさしい日本語)に書き換えてください。高齢者や日本語が母語ではない人にも届くよう、文を短くし、専門用語を避けてください。期限や再申請の権利は正確かつ明確に保ってください。原文に書かれていないことは絶対に加えないでください。」最後の一文が重要だ。AIに「創作」させないための指示だからだ。
ステップ3:原文と照らし合わせてすべての文言をチェックする。ここが最も重要なポイントだ。日付、期限、再申請の権利が実際の通知書と完全に一致していることを確認する。AIは文章を丁寧な言い回しに書き換えるのは得意ですが、行政の文脈を正確に解釈するのには向きません。あいまいなルールは解釈させず、明確な規定は原文のまま再述させましょう。
ステップ4:安全な環境内で再識別化する。人間がチェックした平易な日本語のバージョンを、所属機関の書式や記録システムに貼り付け、実際の氏名、日付、金額をその内部に戻す。チャットボット上では決して行わない。
作業全体で数分で完了し、クライアントは自分の状況と次のアクションを明確に理解した上で帰られます。
これはあなたにとって何を意味するか
膨大な文書業務を抱えている場合:ここから着手するのが最も効果的です。給付金や介護関連の通知書は複雑で内容が重複しやすく、クライアントにとっては精神的な負担も大きいです。
在留外国人のクライアントをサポートしている場合:まずAIにやさしい日本語で書き出させ、必要に応じて翻訳の草案を作成する。ただし、翻訳結果は資格を持った専門家が確認する「草案」として扱い、そのまま完成品として使うのは厳禁だ。
職場にまだAI利用ルールがない場合:匿名化したテキストのみを使用し、その利用実績を記録した上で管理職へ報告する。慎重にAIを活用する職員と、安易に個別支援計画をチャットボットに貼り付けてしまう職員では、立場が全く異なります。
業界の新人の場合:文章作成の時間を短縮するためにこの手法を活用しよう。ただし、福祉制度の仕組みを学ぶための省略手段として使ってはいけない。AIが近道になるのは「文章の作り方」であって、「制度の理解」ではありません。
AIにできないこと
制度の解釈をAIに委ねてはいけません。AIは自信満々に期限を間違えたり、存在しない再申請の権利をでっち上げたりすることがあります。原文と照らし合わせ、すべての事実を確認するのは必須です。
AIはクライアントの背景を知りません。過去の経歴や認知症の進行度、現在の状況を考慮することはできません。そこはあなたの専門的な読み取り力であり、AIが担うべき役割ではありません。
一般公開版のChatGPTが機密性の高い作業場になるわけではありません。要配慮個人情報を扱う環境ではなく、匿名化という手順こそが「有用なツール」と「法違反」を分ける境界線なのです。
そして、人間らしい温かい対応をAIに代わってもらうことはできません。AIは通知書を分かりやすい文章に直すことはできても、不安を抱えた高齢のクライアントと向き合い、本当に理解したかどうかを見極めることはできません。それこそがあなたの役割です。AIは書類作業を効率化し、あなたがその分を人間らしい対応に充てる時間を作り出すための存在なのです。
まとめ
複雑な通知書の処理は、AIが本来得意とする分野です。匿名化という手順を絶対視しさえすれば、クライアントのプライバシーを一切脅かすことなく、数分で解決できます。個人情報を一旦剥ぎ取り、AIにやさしい日本語への書き換えを任せる。その後、すべての事実を原文と照合し、実際の詳細情報を本来あるべき場所——あなたの名前が記された安全なシステム内——に戻すだけだ。
プライバシー保護を正しく実施できるかどうかで、AI活用の成否は大きく変わります。私たちの介護現場におけるAI活用講座では、個人情報保護法や倫理ラインを越えることなく、デリケートな福祉・介護現場でAIをどう活用すべきかを詳しく解説しています。匿名化の習慣、プロンプトの組み方、クライアントとあなた自身を守るための確認手順——それらをこの講座から始め、机の上に届いた次の通知書に実際に適用してみよう。